イルカも泳ぐわい2

イルカも泳ぐわい

以前取り上げた、お笑いコンビ「Aマッソ」の加納愛子氏のエッセイ、「イルカも泳ぐわい」を取り上げたいと思います。一気に書き上げた感のある文章です。独特のリズムとワードセンスが光りっぱなしです。

イルカも泳ぐわい

「かぶの旬は年に2回あると知ったとき、真っ先に「せこー!」と思った。実際に口に出しても言った。しかも春のかぶはやわらかくて、秋のかぶは甘みがある、とくる。旬を2回むかえるだけでもせこいのに、それを違うパターンで? せこい。これはちょっと可愛げがないんじゃないか。他の野菜の「え?そんなんしていいん?」という声が聞こえる。ほんまにそう。ええわけないよな。みんな一回勝負でやってんのにな。
 私は、かぶの、丸っこい白からヒゲをちょろりと出しておどけておいて、旦那それだけではございませんです。というように、落ち着きながらもしっかり躍動感のある葉っぱで格を出しているところが気に入っていた。そのフザケ根とマジメ葉のコンビネーションを見て、手にとってもらおうと必死の努力をしているのだと解釈していた。殊勝な心がけだと感心してさえいた。頻繁には買わなくても、スーパーでネギを手に取りながら視界に入るかぶにも「やってんね」とやわらかい微笑を送っていた。

イルカも泳ぐわい


 だが、旬が2回あるなら話は変わる。かぶは余裕だった。フザケ根が生やしているヒゲはなんと「これ見送ってもすぐ次があるもんねププププ」の小馬鹿あおりちょろりヒゲだったのだ。あかん、人をおちょくるのもいい加減にしいや。どないしたろか小童。
 私は密かに「春しか買わない作戦」を立てる。そうすることでかぶの「2旬待ち」の自尊心をへし折るのが狙いだ。しかしこれは諸刃の剣で、春しか買わないというのを強調するには、春にかぶを買う頻度を上げることになってしまう。ここは冷静にいきたい。売り場で、できるだけ真顔でかぶを手にとる。大きい。通常よりも、ずしっとしている。確実に旬を迎えてやがる。種類問わず、旬の野菜を買うときの「いやん旬やわ~~ん」というオバハン喜びが体を駆け巡りそうになる。そこをぐっとこらえ、かぶを買い物かごに入れたら、そのあと即座に新玉ねぎと新じゃがを投げ入れて、かぶを挟む。なめとったらあかんでい、旬はあんただけちゃうんやからなあ!

少ない素材から広がる世界観

要は、「かぶの旬が2回ある事」。それがこの文章の材料になっているんですが、そこからここまで広がるんですね~~~。いやぁ、すごいっ。やっぱ普段のコントづくりとかでクセになるんでしょうね。①日常生活のささいな違和感に立ち止まれる②どうやったらそれを面白く広げられるか。
この2つを常にクセづけてないと、書けない文章。サイコーです。それでは、また。

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