臨場感の出し方|美しくて軽快な日本語5

美しい文章のイメージ

小説っていうより、文章の一節を抜き出すという、おなじみのテーマに戻ってまいりました。お久しぶりです。で、今回も「ウマし」について取り上げます。今回で5回目となるわけですが、おさらいをしてみましょう。1回目「ウマし」→2回目「ウマし」→3回目「ウマし」→4回目「村上春樹・ダンスダンスダンスとノルウェイの森」でした。ええ、そうですとも。ようやく4回目以降に村上春樹氏が登場し、「ウマし」の呪いが解けたかに見えました。今後はさすがに、ウマし以外の文章を取り上げるんだろう。そう思われた方もいるはずです。そして私もそう思ってました。

絶妙なやつを出すのが難しい

他の小説で印象に残っている文章も、もちろんあります。しかし、ウマしのようなエッセイ本以外だと、どうしてもあらすじを説明する必要があり、多少のネタバレになる事がわかりました。中でも前回紹介した、ワイルドソウルの一節は私も紹介したくてしょうがなかったのですが、どう考えても壮絶なネタバレになってしまうので断念しました。書きたかった、、、あの松田の人生観が変わっていく様とカーチェイスを、、、。ぜひ、ワイルドソウルの下巻はお読みください。一個人の人生観が変わっていく様と、車の疾走感を表現するうえで、これ以上のものはないはず、、、。うーん。なんか違いますね。なんといいますか、作者のボルテージがマックスになって書いてるのが、読んでる側にもビリビリ伝わるといいますか、私の表現力ではこれが限界です(笑)。

というわけで、いつもの「ウマし」

というわけで、ウマしです。「にゃーこを探せ」というエッセイをご紹介します。菓子パンを紹介するだけのブログがあるそうです。その名も「にゃーこの菓子パン日記」。そのブログを伊藤さんは毎日欠かさず見るようルーティンに組み込んでいるそうです。

「にゃーこ」を探せ

不思議だ。日本のどんな菓子パンにも、炊き立てご飯のような、湿り気のある、かるい歯ごたえ、日本の洋菓子にも通底する、甘さを押し隠した甘さがある。ここに「にゃーこの菓子パン日記」というサイトがある。あたしはこれを「お気に入り」に設定してあり、ツイッターやフェイスブックの自分のアカウントは見なくとも、これは毎日見る。欠かさず見る。にゃーこはほとんど毎日更新する(2018年現在はそうでもありません、残念ながら)。内容はこうだ。ヤマザキパンや敷島パン、フジパンなどという大手パンメーカーの105円や116円の袋入り菓子パンを買ってきて、写真に撮り、袋から出してまた撮り、2つに割って断面を撮る。それから食べて点数をつける。ほとんどに四つ星がつく。菓子パンは見かけによらずカロリーが高い。一個4~5百カロリーはざらにある。カップ麺なみである。にゃーこは油分の多いドーナツ系とかホイップ系が好きなようだ。ときどき「うまーい!」と叫び声をあげる。「ぺろりといける」とか「リピ必至」とか書いて平然としている。あたしは考える、にゃーことは誰か。きっと体格は大きくていくらでもカロリーを吸収する。エネルギーに満ちあふれていて、自分の目的のためには手段を選ばない。あたしもそうだ。文章は達者で、的確で、ときに厳しく、経験値の低い若者の手によるものとは思われない。いくら甘いものが好きでも、こんなに毎日菓子パンを食べつづけるのは人間わざとは思えないから、あるいは昔の藤子不二雄みたいに、何人かでにゃーこを演じているのかもしれないと考えたが、それにしては文章に統一感がある。甘みを欲するという事は、自分を愛する気持ちが尽きることがないということだ。あたしもそうだ。ああ、こうして想像するだに、まだ見ぬ妹か娘かのようになつかしい。あるとき飲み屋で興に乗り、友人のスマホを借りて、このサイトを表示させ、熱心な読者であると打ち明けた。恥ずかしかった、勇気がいった。しかし、友人たちは動じず、わらわらと画面に見入って読み始めた。女はみんな菓子パンが好きなのだ。写真はプロなみ、と雑誌編集者の友人が言った。影がうつらないように撮る技術と装置を持ってるよね、と。にゃーこの後ろ姿を、カーテン越しにチラ見したような気分であった。

謎の臨場感

なんてことはない、ブログ紹介のはずが、この臨場感。前半の、「うまーい!と叫び声をあげる」のくだりですが、あくまでブログです。本当に叫んでるわけではなく、書かれているだけです。まるで、目の前にいるかのような書き方。こういうところは真似できるのではないでしょうか。あとは、何げにでてくる、長く、畳みかけるような文章の後に出てくる「あたしもそうだ」。この短い文章が2回出てきます。そのおかげで文章がギュっと締まっています。何らかの参考になったなら幸いです。それでは、また。

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